【高校数学でわかる】コロナウイルスPCR検査の限界

コロナウイルスイメージ学術記事

「海外では,ドライブスルー方式で検査をしている国もあるのになぜ,日本はしないの?」「全国民にPCR検査をしたら,陰性の人は普通の生活ができるんじゃないの?」

コロナウイルスのPCR検査についてこんな疑問を抱えている人も多いかと思います.しかし,PCR検査をしても,陰性の人が実際には感染者である可能性を否定できません

これは,現在の日本の状況では,PCR検査で感染者を見つけられる確率が低いことと関係してきます.

今日は,PCR検査で感染者を見つけることがなぜ難しいのかを,高校数学Aの知識でわかるように説明していきます.

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 条件付き確率とベイズの定理

まず,条件付き確率の復習をしましょう.

  • 事象Aが発生する確率を,\(P(A)\)
  • 事象A,事象Xがどちらも発生する確率を,\(P(A\cap X)\)
  • 事象Xが発生したもとで,事象Aが発生する条件付き確率を,\(P(A|X)\)
  • この時,\(P(A|X)\)は,以下のように定義されます.
    $$P(A|X) = \frac{P(A\cap X)}{P(X)} \tag{1}$$
    $$P(A\cap X) = P(A|X)P(X) \tag{2}$$

 

  • ここで,\(P(A\cap X) = P(X\cap A)\)と式(2)より
    $$P(A|X)P(X) = P(X|A)P(A) \tag{3}$$
  • 式(1)および式(3)より,次の式が導出されます.(統計学ではベイズの定理と呼ばれています.)
    $$P(A|X) = \frac{P(X|A)P(A)}{P(X)} \tag{4}$$

 

ベイズの定理
$$P(A|X) = \frac{P(X|A)P(A)}{P(X)} \tag{4}$$
また,Σを使えば,次のようにも書けます.(Σは数Aでは出てこなかった気がするので,読み飛ばしてもらって結構です.)
$$P(A|X) = \frac{P(X|A)P(A)}{\sum_A P(X|A)P(A)}$$

 PCR検査の限界

まずは,感染率を求めるために,現在の累計感染者数をgoogle先生に聞いてみます.
2020年5月17日19時29分,日本国内の感染者数は16253人でした.続いて日本の総人口は,1億2650万人です.

コロナ感染者数日本の総人口

日本の総人口に占めるコロナウイルス感染者の割合(感染率)
$$感染率 = \frac{16,253}{126,500,000} = 0.000128 \approx 0.0128\%$$

 

PCR検査の正確性(感度,特異度)は公表されていませんが,ここでは,SARSの数値を参考にします.
Richardson SE, Tellier R & Mahony J (2004) によれば,SARSの場合,発症後数日以内であれば感度は80%程度,特異度は多くの研究で90%以上とされているようです.(アブストラクトしか読んでいないので.もし間違えていたら教えてください.)
これをもとに以下のように設定します.

PCR検査が感染者に対して,正確に陽性と判定できる確率(感度):80%
PCR検査が非感染者に対して,正確に陰性と判定できる確率(特異度):95%

 

それでは,ベイズの定理よりコロナウイルスPCR検査の限界について考えていきます.まずは,以下のように確率を定義します.

PCR検査の結果が陽性である事象の確率(陽性率):\(P(陽性)\)
PCR検査の結果が陰性である事象の確率(陰性率)\(P(陰性)\)
感染者である事象の確率(感染率):\(P(感染) = 0.000128 = 0.0128\%\)
感染者でない事象の確率(非感染率):\(P(非感染) = (1-0.000128) = 0.999872 = 99.9872\%\)

 

この時,PCR検査で陽性の判定を受けた人が,実際に感染者である確率\(P(感染|陽性)\)を求めてみます.これは,ベイズの定理 (4)より以下の式で表されます.
$$P(感染|陽性) = \frac{P(陽性|感染)P(感染)}{P(陽性)} \tag{5}$$

ここで,陽性率\(P(陽性)\)の値は,感度と特異度,感染率をもとに算出できます.陽性の判定を受けるには2パターンあります.

  • 一つ目は,感染者に対して正しく陽性と判定:\(感度 \times P(感染)\)
  • 二つ目は,非感染者に対して誤って陽性と判定:\((1-特異度) \times P(非感染) \)

よって,陽性率\(P(陽性)\)の値はこれらを足し合わせれば良いですから,
$$P(陽性) = 0.80 \times 0.000128 + (1-0.95) \times 0.999872 \approx 0.0500 = 5\% \tag{6}$$
(この5%の陽性率に関しては,あとのセクションで検証します.)

さらに,感染がわかっている人がPCR検査で陽性の判定を受ける確率\(P(陽性|感染)\)は,感度のことを意味していますので,式(5)および式(6)から\(P(感染|陽性)\)が求まります.

$$P(感染|陽性) = \frac{P(陽性|感染)P(感染)}{P(陽性)} \\
= \frac{0.80 \times 0.000128}{0.05} \approx 0.00205 = 2.05\%$$
まさ
まさ

PCR検査で陽性とわかった人が,本当に感染者である確率がこんなに低いなんて...

しかし,どうしてこの問題設定で2%という低い数字が出たのでしょうか?
次のページでは,どうやったらPCR検査で陽性の人が実際に感染者である確率をあげられるのか,考えていきます.

 

コメント

  1. こうき より:

    まじかよと思って三回くらい見直してしまいました
    そもそも感染率のめちゃめちゃ低い母集団を検査する意味がないってことなんですね わかりやすくてすごい
    次も読むからがんばって書いてね

    • まさ より:

      コメントいただきありがとうございます!
      自分でも計算結果が信じられずに,年度も計算し直しました笑
      次もがんばって書きます!

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